大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 平成5年(モ)105号 決定

主文

相手方は、平成七年六月二日午後一時三〇分の本件口頭弁論期日までに、相手方が申立人の注文を受けたとして作成した注文伝票を提出すること。

理由

一  申立の趣旨及び理由

本申立の趣旨及び理由は、別紙文書提出命令の申立書、同平成五年五月二四日付文書提出命令申立補充書、同平成五年一一月五日付原告第三準備書面、同平成六年八月三日付原告第七準備書面及び同平成七年四月二四日付文書提出命令申立補充書記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、別紙平成五年六月二二日付被告ら準備書面(三)及び平成六年六月三日付被告ら準備書面記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

本件の基本事件は、原告が、昭和六二年夏ころ被告野村證券に対し証券取引の委託をなしたところ、被告野村證券が背任的取引、無断売買、説明書交付義務及び確認書徴求義務違反を行い原告に損害を与えたとして、被告野村證券の担当者であった被告永見に対しては不法行為、被告野村證券に対しては、①不法行為、②債務不履行及び不法行為、③預託金返還請求権及び不法行為のいずれかを理由として、その賠償ないし返還を求めている事案であり、本件は、申立人が相手方に対し、申立にかかる文書が民訴法三一二条三号の法律関係文書に該当するとして、その提出を求めているものである。

本件記録によれば、申立人が提出を求めている注文伝票は、相手方が申立人の売買注文を受けた際にその都度作成する伝票であって、自己又は委託の別、顧客名、銘柄、売又は買の別、受注数量、指値又は成行きの別、取引の種類、受注日時、約定日時、約定価格等、顧客からの個別の売買注文の詳細が記載されており、これが取り次がれて右注文に基づく売買取引が執行されるという意味において最も基本的な伝票であって、証券会社が顧客の注文のとおりに売買の取次をしたか否かを判断する基礎資料となるべき事項が記載されていることが認められ、この伝票は、証券取引法一八八条、証券会社に関する省令一三条一項一号により証券会社において作成が義務付けられているものであり、同省令一三条所定の他の帳簿類と相まって、証券会社の内部統制を可能ならしめるとともに、大蔵省職員による証券会社の検査を実効的に行わせるために作成が義務付けられているものと解される。

ところで、民訴法三一二条三号の法律関係文書とは、挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書だけではなく、その法律関係に密接な関連のある事項を記載した文書も含まれるが、文書の所持者がもっぱら自己使用の目的で作成した内部文書はこれにあたらないと解すべきである。

しかるところ、右認定の事実に照らすと、右注文伝票は、申立人・相手方間の法律取引関係それ自体を記載したものということはできないものの、これと密接な関連のある事項を記載した文書であることは明らかであり、他方右伝票の作成は法令によって義務付けられているのであるから、右文書は、相手方がもっぱら自己使用の目的で作成した内部文書であるということはできない。

そして、基本事件の争点に鑑みると、右注文伝票の証拠調の必要性を肯認することができる。

三  結論

よって、申立人の本件申立は理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐々木寅男 裁判官 鈴木桂子 裁判官 池下朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例